[浅草ゆかりの長唄 INDEX]

四季の詠 明治五年・十二世杵屋六左衛門作曲。
江戸の隅田川沿岸、橋場あたりから柳橋あたりまでの風光や景物を四季にわけて叙したもの。

[解 説]

 明治五年(1872)九月開曲。作詞者末広。この人物についてはよくわからない。作曲者は十二代目杵屋六左衛門である。正式名称は「風流四季の詠」。『長唄正本』の絵表紙には歌舞伎の大名題のように「御注文色取隅田川(ごちゅうもんいろどりすみだがわ)」と記されているが、劇場上演の記録も見当たらず、曲の内容からみても演奏会用長唄として開曲されたものであろう。春夏秋冬、四季のながめを題材にした曲を四季ものという。この曲も「四季の山姥」「四季の花里」「四季の蝶」などとともに長唄の四季もののなかの一曲で、隅田川界隈の四季それぞれの風情をうたっている。

 本調子、二上り、三下りと転調する。本調子は春で、前弾から「年ものどけき光かな」までは河東節の雰囲気で、唄い出し「春景色」は長唄「助六」の冒頭「咲き匂う」そのままの曲節である。「隅田の夕桜」「三囲の稲荷」「浅草寺の鐘の声」「仲の町へと」「太鼓の音は猿若」「どう聖天町」「土手八丁」そして「小室の節も後や先、いきな姿と見返りの、二本柳衣紋坂、雁は田町を朝帰り」と浅草あたりの地名風物を読み込んでいる。スガガキを崩した感じの三味線を聞かせて二上りに移る。ここは夏で、山野堀、橋場今戸、竹町を唄い、四丁目の合方を聞かせて三下がりに移る。「大川一」「天一丸」「屋根船」「柳の橋」から段切れの「隅田川」まで、ここは夏から秋冬の風物詩で、その間に、つくだの旋律を崩したり、虫の合方を聞かせる。まさに下町情緒盛りだくさんである。

 「春霞、東の花はいかならん」「小室の節も後や先」「青葉に出でし山谷堀」「柳の橋の日暮らしは、これぞ涼しき夕まぐれ」「秋になりてや隅田の堤」「誰を待乳の紅葉狩」など聞かせどころも多い。

解説者『長唄研究会:植田隆之助』