[浅草ゆかりの長唄 INDEX]

美面より 文化六年、二世杵屋正二郎作曲。
当時の人気役者沢村田之助が贔屓客であった浅草の菓子屋が自家製の菓子「みめより」を舞台での田之助の踊りの地に詠み込んで宣伝させた長唄。

[解 説]

 文化六年十一月に市村座で初演された「貞操花鳥羽恋塚(みさおのはなとばのこいづか)」の一番目五立目に、二代沢村田之助が淡路島の海女の小磯に扮して踊った所作事の地の音楽。作詞は二代目桜田治助または初世福森久助、作曲は二代目杵屋正次郎。

 二代目正次郎(?〜文政三年)は、「老松」の四代目六三郎のわずか先輩にあたると思われるが、六三郎よりずっと若くして世を去った。そのため作品も多くはないが、「汐汲」「舌出し三番叟」「犬神」など、掛合い物の名作が残されている。

 この曲は、浅草馬道の菓子屋から売り出された菓子の金つば「美面より」を宣伝するために作られたという。田之助は、当時人気の女方だったから、その効果が期待されたのだろう。しかし、曲が上演されたときには、その菓子屋は倒産してしまっていて、まったく宣伝にはならなかったらしい。

 「みめ」は見目形の見目で、容貌、とくに美貌を意味する。「見目より心」といえば、人は、容貌よりも心が美しい事の方が大切と言うわけだが、この曲では、その教訓的な意味を吉原に結び付け、最後に「風味うま道召せやれ召せやれ」と、馬道の美味い美面よりを宣伝している。

 曲は「俄鹿島踊」よりさらに小規模で、鼓唄のあと、全曲を三下りで通す。

解説者『日本大学芸術学部教授:蒲生郷昭』