[浅草ゆかりの長唄 INDEX]

まかしょ 文政三年初演。二世杵屋佐吉作曲、二世桜田治助作詞。
本命題「寒行雪姿見」の地の音楽。願人坊主(乞食僧)の姿を舞踊曲にしたもので、軽妙で洒脱な雰囲気の曲。

[解 説]

 三代目板東三津五郎が上坂のお名残に踊った七変化舞踊「月雪花名残文台(つきゆきはななごりのぶんだい)」の第五で、本名題「寒行雪姿見(かんぎょうゆきのすがたみ)」の地の音楽。文政三年九月に中村座で初演された。作詞は二代目桜田治助、作曲は二代目杵屋佐吉。「まかしょ」という通称は、詞章の冒頭の句によっている。

 二代目佐吉は、生没年不明だが、つぎの「俄鹿島踊」の初代杵屋勝五郎とほぼ同じころに活動した人である。ただし、作曲をした期間はあまり長くはなかったようで、よく知られた現行曲としては、同じ七変化のうちのもう一曲「浅妻船」があるだけといってよい。ついでながら、文政三年というのは、第一曲の「老松」が作曲されたのと同じ年である。

 曲は「まかしょまかしょ」と叫びながら寒参りをして銭を貰い歩く願人坊主の姿を舞踊曲にしたもので、赤装束の猩々から引き抜いて、まったく違う白装束のこの役に変わったのである。詞章も音楽も、文句なしに楽しめるものに作られており、初演時の客席は、きっと笑いが絶えなかったであろう。願人坊主というのは、江戸時代の都市にいた乞食僧で、人に代わって祈祷や水垢離などをしていた。初演した三代目三津五郎は、九年前に、常磐津節を地とする「願人坊主」を踊っていて、それを作詞したのも二代目治助であった。

 「君を思へば」からクドキ、「春の眺めは・・・」はチョボクレ、「あれあの声を・・・」は投節で、後半の「帰命頂来・・・」は、神下ろしの祈祷である。神下ろしは、神づくしでつづられているが、内容は廓の描写になっている。なお、はじめのほうの「七つ梅」「剣菱」「白菊」「花筏」は、そのころ売られていた酒の銘である。

 軽妙で洒脱な雰囲気を、三下りで通して表現する。

解説者『日本大学芸術学部教授:蒲生郷昭』